股関節と腰痛
先回の記事でお話ししたように、股関節の伸展制限は骨盤の前傾トルクを生み、腰椎の伸展・前弯を助長します。
セラピストであればHip-Spine syndromeという言葉も一度は聞いたことがあるかと思います。
上記の腰椎伸展・前弯に関して言えば、椎間関節へのストレスが腰椎伸展位で増大することや、硬膜外圧が腰椎伸展位で上昇することなどから、股関節のモビリティは腰部障害と密接な関係があります。
そんなことから腰部障害を診るうえで股関節の評価は必須と考えており、実際にほとんどの腰痛患者さんには股関節のスクリーニング検査を行っています。
今回は股関節評価の中で私が使用することの多い、股関節モビリティを総合的に評価できる【Modified Thomas test】を紹介します。
Modified Thomas test~トーマステスト変法~
概要・方法
Modified Thomas testはその名の通りトーマステストの変法として比較的メジャーな検査です。
ご如才ないことですが、トーマステストThomas testは仰臥位で股関節を屈曲することで骨盤を後傾させ、反対側の大腿が浮いてしまうのを陽性とするもので、腸腰筋の短縮を評価する検査として国家試験でも出題される代表的な整形外科的テストです。
Modified Thomas testでは膝関節から遠位をベッドから出した状態でトーマステストを行います。
それにより、腸腰筋の短縮はもちろん、より多くの情報を得ることができるというものです。
評価のポイントと解釈
通常のトーマステストと違い、片側のみの検査ではないため、屈曲側(写真左下肢)と伸展側(写真右下肢)でそれぞれチェックするポイントがあります。
(あくまで私の視点と解釈です)
屈曲側のチェックポイント
①股関節の屈曲が十分に可能か。
:股関節の可動域、殿筋の状態をチェックします。
②まっすぐに屈曲ができるか。
:外転、外旋が含まれる場合、殿筋群の問題が示唆されます
③足関節は中間位に近いか
:回内してしまう患者さんを散見し、その多くは後脛骨筋の問題だと感じています。
伸展側のチェックポイント
①大腿がベッドから浮き上がらないか。
:通常のトーマステスト同様、主に腸腰筋の状態を調べます。
②ベッドから降ろした下腿が床と垂直か(膝関節が屈曲可能か)。
:膝が屈曲できない場合、大腿直筋の筋長や短縮が示唆されます。
③股関節が外転していないか。
:外転位にある場合、大腿筋膜張筋等の外側要素の筋長や短縮などの問題が示唆されます。続けてOber-testを行うと良いでしょう。
注意点
総じて、まずは患者さんに自分で行ってもらい、必要に応じて検査者が介助したり矯正したりして抵抗感や可動域等を確認すると良いでしょう。
枕が高かったり、身体を起こしてしまったりすると、脊椎の弯曲が変わってしまいます。
また、股関節の屈曲に伴い骨盤の側屈等が強く出るなどしても正確な結果が得られませんので要注意です。
使用例:スポーツチームのスクリーニング
スポーツ競技者いわゆるアスリートなどは、一般の方に比べ怪我のリスクが非常に高いため、あらゆる傷害と関連する股関節のモビリティは最低限確保しておくべきです。
その一つの目安としてとしてこのテストを使用するのも良いでしょう。
例えば私が関わらせていただいたスポーツチームなどには、「傷害の有無を問わずこのテストをクリアできるようにしましょう」とお話をさせて頂くことがあります。
医療従事者でなくとも比較的簡便に股関節の総合的な可動性・モビリティをチェックでき、予防的観点からもお勧めです。
あらかじめ、「これに引っかかったらこのストレッチをして下さい」というようにコレクティブエクササイズの資料などを準備しておくとさらにGoodです。
結語
今回ご紹介したModified Thomas testに限った話ではありませんが、あらゆる身体検査において重要なのは、テストによって得られた結果を解釈する能力です。
画一的な検査方法と解釈はメリットも多いですが、どうしても取りこぼす情報が出てきてしまいます。
excellentなセラピストは同じ現象や状況から、より多くの情報を読み取ります。
それは知識と経験、発想の成せる業で、日頃の臨床でいかに試行錯誤を繰り返してきたかが勝負となります。
あとはその検査結果や解釈の信頼性の問題になりますが、そういったところから臨床につながる考証、研究が生まれるのだと思います。
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