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歩行時の腰痛と股関節伸展【脊柱管狭窄症・間欠跛行にも】

体幹伸展と遠心性収縮 リハビリ

 

歩行時の腰痛

 

先日行った腰痛セミナーの中で、歩行時の腰痛と脊柱管狭窄症の間欠跛行について、少し触れました。

今回はその補足を交えて、私が臨床で考えていることをお話をしようと思います。

 

腰痛は多くの場合、複合的な要因によって引き起こされます。

局所の治療によって真の改善を得ることは難しく、全身的な問題として腰痛をとらえていかなければなりません。

 

歩行動作における腰痛の発症要因も様々ですが、股関節の伸展制限がその原因となっていることが非常に多いと感じています。

 

 

ターミナルスタンスの股関節伸展

 

ご如才ないことですが、立脚相後半、いわゆるターミナルスタンス(TSt.)においては股関節に一定の伸展可動域が求められます。

十分な股関節の伸展によって前方への推進力が生まれスムーズな脚の振り出しが可能になることは周知の事実です。

歩行時の股関節伸展

 

この時股関節に伸展制限があると、お尻が後ろに残ったまま体幹が前傾してしまい前方への重心移動が上手く行えず、慣性の使われない非常に効率の悪い歩行になってしまいます。

 

腸腰筋等の短縮による股関節の伸展制限が寛骨への牽引力となって骨盤の前傾トルクを生み、過剰な腰椎前弯を引き起こすことは想像に難くありません。

また、代償的に「骨盤前傾+腰椎前弯」をすることで股関節の伸展を補い、なんとか重心を前方へ移そうとする戦略を用いていると捉えることもできるかもしれません。

 

その理由が何であれ、腰椎椎間関節の圧縮応力は伸展時に特に高まりますから、歩行時の腰椎前弯増強が恒常的に行われると、蓄積されたメカニカルストレスが炎症や変性を引き起こすことが推測されます。

 

これが歩行時、特にTSt.における腰痛の原因となってきます。

 

歩行時の股関節伸展制限の影響

 

こういった患者さんの歩行を観察すると、当然TSt.における股関節伸展は消失しており、疼痛回避(腰椎前弯回避)のために、体幹を前傾させたり、本来反対に回旋する上半身と下半身を一本にして回旋させるようなぎこちない歩き方が観察されます。

 

理学療法戦略

 

こういった経過を経て引き起こされた腰痛ですから、痛みのある部位(椎間関節)に対する介入をしていても一時的な除痛は得られど、なかなか改善はみられません。

 

よって介入戦略として、まず腰椎の過前弯を引き起こしている主犯と考えられる股関節伸展可動性の確保を行います。

 

ほとんどの場合、腸腰筋をはじめとした筋肉のストレッチ等オーソドックスな介入で可動性は改善していくのですが、それだけでは歩容があまり変化しない患者さんが少なからず存在します(痛みが軽減したり歩行可能距離は伸びていくのですが)。

腸腰筋ストレッチ

 

そういった場合は、腰椎のスタビリティを賦活していくことで改善が得られることが多い印象です。

必要なのはもちろん腰椎伸展方向への力に抵抗する、腹筋や腸腰筋、大腿四頭筋など前面の筋群、いわゆるAnterior Stabilityとなります。

可動性に問題がなくても、腰椎を生理的弯曲位に固定する能力がなければ当然問題は完全に解決しませんから当然と言えば当然なのですが、案外見落とされがちなポイントです。

今回お話ししているようなケースでは、特に骨盤前傾トルクを抑え込む腸腰筋・大腿四頭筋の収縮が特に重要になると思います。

 

よって今回のような場合の介入戦略としては、

 

①. 股関節のモビリティ
②. 腰椎のAnterior Stability
③. ①&②の協調訓練

 

の順で段階的に進めていくのが順当でしょう。

 

①、②を個々に獲得し、③として腰椎の生理的弯曲を保ちながら股関節を伸展させる練習などに移行するのが良いと思います。

腰椎の生理的弯曲を意識したオーソドックスなブリッジ運動でも十分に効果は見られますし、セラバンドなどを使った訓練もいいかもしれません。

脊椎を意識したブリッジ運動

 

漸次、歩行動作に繋げていきましょう。

 

その他の関連した痛み

 

立位での体幹伸展時痛も同様の考え方で治療できることが多いと思います。

立位で体幹を伸展するには、前述と同様に股関節の伸展可動域に加え腸腰筋や腹筋、大腿四頭筋などの遠心性収縮(≒Anterior Stability)が機能しなければいけません。

 

体幹伸展と遠心性収縮

 

Anterior Stabilityは、股関節伸展を行う多くの状況で必要となる能力ですから、セットで評価する癖をつけておくと見落としが少なくなります。

 

スポーツ動作等における体幹伸展時痛も考え方は同様ですが、例えばキック動作のように、歩行などよりはるかに大きな股関節の伸展可動性や体幹のスタビリティが求められますので、少し視点を広げる必要があると思います。

 

キックと股関節伸展

 

また、同じ歩行時腰痛でも、TSt.などの歩行周期に関わらない痛みについては持続的な筋緊張によるコンパートメント症状や脊柱管狭窄症などが考えられますので別の介入が必要となります。

 

脊柱管狭窄症における間欠跛行の本態は、腰椎前弯による脊柱管面積の低下とそれに伴う硬膜外圧の上昇です。

その病態を考えれば、前述のTSt.時の腰痛と同様に介入することで、ある程度間欠跛行を改善させることができるかもしれません。臨床では実際にそのように感じています。

↓詳細は以下をご覧ください↓

脊柱管狭窄症の理学療法介入~間欠跛行とPLFテスト~
脊柱管狭窄症に由来する間欠跛行は、その病態からリハビリテーションや治療に難渋することが多い症状ですが、腰椎の屈曲可動性を確保し、周辺組織の循環動態を改善することで一定の治療効果を得ることが可能です。その指標としてのPLFテストを紹介します。

 

結語

 

腰痛に限ったことではありませんが、筋骨格系の疼痛においては、痛みを起こしている部位と、そこが痛むようになった原因を分けて考える必要があります。

この感覚がないと「その場では良くなるけど次に来たときには元通り」というイタチごっこになってしまいかねません。

 

今回の話で言えば、痛みを起こしているのは椎間関節ですから、椎間関節のモビリゼーションなどによりモビリティのキャパシティが増大すれば痛みを感じなくなる可能性は十分にあると思います。

ただ、その本態は前述の通り股関節のモビリティ低下による代償的な腰椎前弯です。

 

椎間関節のモビリゼーション等で即時的な除痛を図る事も重要ですが、真の治療対象は推して知るべしです。(対症療法も必要です)

 

当該関節のみを治療して痛みが改善したからと言って、

「ほれ!痛み取れたやろ!これがゴッドハンドのテクニックや!!」

では片手落ちと言わざるを得ません。

 

冒頭でも触れた通り、局所の痛みも全身的な問題としてとらえていかなければ真の改善は難しいと思います。

 

 

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↓体幹のスタビリティについては以下をご覧ください↓

体幹筋トレーニング~McGillのBIG3~
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