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Nachemsonナッケムソン椎間板内圧の報告【椎間板ヘルニア】

椎間板内圧 リハビリ

椎間板ヘルニア、ヘルニア術後患者への指導

 

私の勤務する病院は脊椎治療に特化しており、保存・手術問わず腰椎椎間板ヘルニア患者さんのリハビリに携わる機会が非常に多くあります。

 

大黒柱たる脊椎、その中でも大きな荷重に晒される腰椎椎間板を保護するための日常生活動作、姿勢等を指導することの重要性はリハビリテーション領域において非常に大きく、そのためには一定の知識が必要です。

特に椎間板ヘルニア手術後など、組織的な脆弱性を有するケースにおいては、殊更適切な治療・指導内容が求められます。

 

Nachemson 椎間板内圧の報告

椎間板への負担といえば、椎間板内圧に関してのNachemsonの報告が有名です。

大雑把に解釈すれば、「立位<座位、直立位<前屈位で椎間板内圧は高くなる」という報告ですが、類似した研究もいくつかあり、委細は異なれどNachemsonの報告を概ね肯定する内容となっています。

 

椎間板内圧

 

あまりにも有名な報告ですが、それらはあくまで椎間板内圧に関する報告であり、腰椎にとって「座位や屈曲が悪」かと言えばそうとも言えません。

例えば脊柱管の狭窄と関連づけられる硬膜外圧については、“体幹の前屈”によって有意に低下するという報告がされています。

 

脊柱管狭窄症に特有の、屈むと狭窄症状が楽になる“間欠跛行”はご存じのことと思います。

これは腰椎屈曲による脊柱管容積の拡大によるもので、硬膜外圧は歩行器歩行で直立歩行より有意に低下するといった報告もなされています。

また、椎間関節については伸展と側屈・回旋によって強いメカニカルストレスに晒されることはご存じの通りです。

 

硬膜外圧

硬膜外圧の姿勢依存性(Carlo Ammendolia DC)

 

また別の研究(Wilke)ではNachemsonなどの報告にはない、背もたれを利用して深く腰掛けた状態などについても調べられており、一般的な椅子座位よりも低い椎間板内圧が計測されています。

 

 

この研究は45歳の男性一例のみにおいて調べられたものではありますが、臨床的・経験的に納得感のあるデータではないでしょうか。

 

脊椎にかかる圧力の多くは筋収縮によるものですから、背もたれによって姿勢を保持する筋肉の収縮を抑制することができれば椎間板にかかる圧力も低減するということでしょう。

一般的に「悪い姿勢」であると忌避される“背もたれにもたれかかった椅子座位”ですが、こと椎間板内圧にフォーカスすれば一概に悪者と言い切れないということです。(腰椎の前弯度合や、背もたれとの隙間などによって変化はするのでしょうが)

 

これらの報告は、脊椎へのストレスや症状の誘発に対しての姿勢依存性を説明する根拠として知っておかなければならない知識です。

 

スポーツによる椎間板への負担

 

本邦でも競泳、剣道、硬式野球、サッカー、バスケット、陸上、非競技者のうちで硬式野球と競泳の競技者で有意に腰椎椎間板変性(水分含有量の低下)率が高いことが報告されています。

回旋動作を頻繁に行う野球競技者はまだしも、一般的に脊椎への負担が少ないと言われている水中で行われる競泳競技者の椎間板変性率が高いことは意外な結果です。

さらに、陸上競技に至っては、スポーツ習慣のない非競技者よりも変性率が低かったという結果となっています。

動作特性や後述の圧力変化など、要因は様々考えられますが、各スポーツの競技特性と椎間板へのストレスとの関係性の解明が待たれるところです。

 

また、野球、競泳、ウエイトリフティング、ボートなどの運動部員では約60%に椎間板変性が認められ、運動をしない同世代の学生(変性率31%)の倍以上だったそうです。

 

椎間板への栄養供給

 

椎間板髄核はプロテオグリカンによる保水能を持っており、スポンジの如く圧力により水分が放出され、圧力から解放されると再び水分を吸収し膨らむというメカニズムが常に働いています。

血管を持たない椎間板は、この圧力の変化による受動的な循環機構によって外界からの酸素や栄養成分が供給されています。

 

nikkei.com

 

つまり、椎間板の生理学的機能を保持するには適切な圧力の変化が必要であり、忌避すべきは「圧力の無変化」=「同姿勢の継続」であるということです。

椎間板内圧が低く、椎間板への負担が少ないと言われる姿勢であっても、それが長時間となれば椎間板の退行変性を進行させる要因となり得るという事になります。

 

完全に余談ですが、骨の形成に荷重が重要であることは周知の通りです。宇宙に滞在している宇宙飛行士の骨密度は、地球上の骨粗鬆症患者の10倍ものスピードで低下していくそうですから、人間が宇宙空間で暮らすようになった暁には椎間板などにも同様の弊害が出てくるのかもしれません。

ちなみに宇宙空間での骨量減少についての研究は我が国の宇宙飛行士も被験者となって行われています。

骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート製剤)を使わなかった飛行士14人は大腿骨の骨量が6〜7%減少した一方、若田光一さんら日本人3人を含む薬を使用した5人は骨量の減少が抑えられ、尿中に排出されるカルシウム濃度も低かったと報告されています。

 

結語

 

こういった知識を元に、力学的・構造学的な視点、手術による侵襲、インプラントの有無、四肢関節の状態などを踏まえた、セミオーダーの介入ができてこそのセラピストだと思います。

こういうととても難解に感じますが、突き詰めるほどJoint by Joint theoryなどに代表される概念に似た、極々オーソドックスな内容になっていくのかなと思っています。(BPSモデルに代表される、構造学的な要素以外の重要性は言うまでもありません)

 

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参考

Spine (Phila Pa 1976). 1999 Apr 15;24(8):755-62.New in vivo measurements of pressures in the intervertebral disc in daily life.:Wilke HJ Spine (Phila Pa 1976). 1995 Mar 15;20(6):650-3.

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Gait Posture. 2013 Jun;38(2):260-3. doi: 10.1016/j.gaitpost.2012.11.024. Epub 2012 Dec 27. Spinal sagittal contour affecting falls: cut-off value of the lumbar spine for falls. Ishikawa Y

理学療法学第24巻 腰部脊柱管狭窄症における硬膜を圧迫する圧について 山田 英司ら

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Watanabe Y, Ohshima H, et al.:Intravenous pamidronate prevents femoral bone loss and renal stone formation during 90-day bed rest. J Bone Miner Res.19:1771-1778, 2004

Leblanc A, Ohshima H, et al..: Bisphosphonates as a Supplement to Exercise to Protect Bone during Long Duration  Space Flight. Osteoporosis Int 24:2105-14,2013

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