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肩関節周囲炎における夜間痛の原因と治療

リハビリ

夜間痛

 

肩関節周囲炎は臨床での遭遇率が非常に高い疾患であり、急性期からみられる“夜間痛”は病名のとおり“炎症”を主因とする症状です。

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眠れないほどの痛みを訴える患者さんも多く、QOLを著しく損ねるだけでなく、就寝時活動性の低い間にいかに病態の回復を促進できるかといった点で、早期に適切な対応が求められる症状です。

 

適切なポジショニングの指導が必須であることはご如才ないことと思いますが、その病態を解釈すれば、徒手的治療によっても改善を図ることが可能です。

 

夜間痛の病態

ほとんどの場合、根底には炎症によるhyperalgesia(痛覚過敏)が存在しており、本来痛みを感じ得ない程度の組織伸長や関節内圧の高まりにより、過敏性を持った組織が痛みを発しているという病態です。

Shoulder Pain

炎症はその名が表す通り組織に起こった火事のようなもので、早期に鎮火しないと周囲組織(場合によっては反対側)に飛び火をします。

いわゆる炎症物質と呼ばれるものが血管の拡張や透過性の亢進に伴い周囲組織へ拡散する、または脊髄(あるいはさらに上位中枢)レベルの反射応答により過敏性を中心とした症状を引き起こすことなどによるものです。

 

夜間痛の原因

 

私が普段治療を行っている夜間痛の原因として、上腕の相対的過伸展内転強制の大きく二つがあげられます。

 

①上腕骨の相対的過伸展

主に仰臥位で痛みを引き起こす原因です。

肩関節障害の多くに肩甲骨のprotractionや、上腕骨の前方・内旋偏位がみられることはご存知のことと思います。

これらのアライメント偏位が起こると、仰臥位において肩甲骨や上腕骨がベッドから浮き上がったような状態になります。そのまま腕を体側に落とせば、上腕骨が伸展した形になるのは想像に難くありません。

夜間痛

 

上腕骨の伸展により前方の組織が伸長され痛みを引き起こします。

本来ならこの程度の伸展で痛みが起こることはないのでしょうが、肩関節周囲炎では前述の通り炎症によるhyperalgesiaが存在します。

就寝中、炎症によって過敏化した組織に長時間にわたって伸長刺激を加え続けられるという拷問が行われるわけです。

 

つまりベッドから浮き上がった肩甲骨・上腕骨を着地させ、伸展度合を低減してあげることが仰臥位における夜間痛の治療となるということです。

具体的には以下の組織が主因であることが多い印象です。

 

①小胸筋

小胸筋は烏口突起に付着し、緊張や短縮が起こると肩甲骨を前傾・外転方向へ牽引します。

体幹と肩甲骨を接続する筋肉であり、上腕骨に付着を持たないにも関わらず肩関節の可動性やアライメントに大きく関わってくることは周知の通りです。(上腕骨に付着するパターンも少なからず報告されているようですが)

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Sustainable Exercise

 

評価としては、仰臥位での肩甲骨・上腕骨のベッドからの高さを左右比較することや、烏口突起下での圧痛をみたり、肩甲骨を後傾方向へ押圧して弾性を確認するなどを行うことが多いです。

 

 

②烏口上腕靭帯

烏口突起から上腕骨へ接続する靭帯で、腱板組織の薄い腱板疎部を覆っています。

起始停止の関係や筋肉のように収縮・緊張する組織ではないことから、夜間痛に直接の関わりは無いように見えるこの組織ですが、実は病態の治療に非常に重要となります。

一般的には、その組成や構造から靭帯は徒手療法の適応とならないことが多いと言えます。

烏口上腕靭帯は疎性結合組織に富んでおり、小胸筋の筋線維と直接の結合を持ち、筋線維が一部靭帯中に入り込んでいることが確認されています。

烏口上腕靭帯と小胸筋

烏口上腕靭帯(CHL)

 

つまり、小胸筋の収縮・緊張などと関連してテンションが高まる組織であり、逆説的にはこの靭帯のテンションを低減することで小胸筋の緊張をも低下させることができるということです。

また、筋線維が入り込むということはレセプターが存在するということであり、徒手療法に(間接的に)反応する組織であるという解釈が可能です。

小胸筋と関連して評価・治療を行う必要のある組織と言えます。

 

この靭帯のテンションは、前関節包および前方の関節上腕靭帯と共に“前方要素”として上腕骨を前方・内旋偏位させ、上記の仰臥位における上腕骨相対的過伸展という病態を引き起こします。

 

現象としては外旋可動域制限として表出してきますから、肩関節外旋可動性を確認する必要があります。

現に臨床では、外旋可動域の改善と共に夜間痛が鎮静化してくることを度々経験します。

 

治療は小胸筋組織との接続の厚い起始部を中心に行うのが良いと思います。

徒手的にマッサージ等をおこなっても良いと思いますし、ストレッチを行うのであれば肩関節の内転+内旋+伸展を複合して行うと良いでしょう。

経験則ですが、特に外旋+内転を強調すると反応が良いように思います。

 

 

③上腕二頭筋短頭

小胸筋と同じく烏口突起に付着します。こちらも小胸筋と同様に肩甲骨の偏位を引き起こします。

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Fitprince Biceps

 

上腕二頭筋といえば結節間溝における長頭腱の炎症がポピュラーですから、忘れられがちな短頭ですが、ことアライメントの偏位に関しては単関節筋である短頭の影響は計り知れません。

 

 

②内転強制

肩関節周囲炎では、「痛いほうを下にして寝られない」といった訴えが多く聞かれます。

患側を下にした側臥位とは、すなわち肩関節の内転強制であると捉えることができ、上関節包や棘上筋といった上方組織の伸長と関節内圧の亢進が痛みの原因となります。

 

肩関節内転位では棘上筋や上関節包といった上方組織が物理的に伸長されます。

それに加えて、肩関節内転位は下垂位に比べ関節内圧が高まることが知られており、内圧亢進による関節包の伸長刺激が。炎症によるhyperalgesiaと相まって痛みを引き起こします。

また、関節包の伸長性低下があれば、関節内圧が高まりやすくなるのは想像に難くないと思います。

 

評価としては内転可動性や棘上筋の圧痛、内転時の疼痛を見ていきます。

また、上腕骨を下垂方向へ牽引すると関節内圧が低減することが報告されていることから、内転時に上腕骨を牽引し、疼痛の緩和が見られるかを確認するのもいいと思います。

 

厳密に評価をするならば、外旋位での肩関節内転は前上方組織、内旋位での肩関節内転は後上方組織の障害を示唆しますが、大きく上方組織としてとらえて治療していっても大きな差し支えはないように思います。

 

 

 

 

治療はとしては棘上筋の横断マッサージや上方組織の伸長が適応となります。

 

また、一概に側臥位といっても上肢の位置によって肩関節の状況は変わってきますので、水平内転の評価等を併せて行う必要もあると思います。

そうなってくると後方ないし下方の組織も少なからず関連がありそうです。

 

肩関節の可動域制限となると、ADLに直結する屈曲や外転ばかりがフォーカスされ、内旋や内転の可動性は見落とされがちです。

 

内旋可動性や後方組織については以下の記事にて解説をしています。

肩関節可動域制限の原因~後方組織のタイトネス~
肩関節の可動域制限の原因となる後方組織のタイトネス(PST)について説明しています。 内旋制限を中心に評価を行い、臼蓋上腕リズムをはじめとした骨頭の運動異常を修正することが大切です。

 

夜間痛の治療

 

ややもすると良い反応の得られにくい肩関節周囲炎の症状ですが、上記を丁寧に治療していくと、「楽に寝られた」という言葉が聞かれます。

安楽な就寝は傷害組織の回復を促進し、なにより患者さんの精神的安定に大きく寄与します。

 

治療時に気を付けるべきは、“炎症が根底にあることと”、“過敏性の存在する組織である”ということです。

過度な伸長や押圧、疼痛動作の反復は炎症を悪化させかねませんし、そもそも過敏化した組織を治療するわけですから、治療は思っている以上にmildに行うことになります。

その手技手法を問わず、基本的に疼痛を感じる強度での治療はすべてNGと思って差し支えありません。

患者さんの反応を観察し、フィードバックを受けながら、適切な強度・時間での治療を心がけます。

 

夜間痛の軽減は炎症の鎮静化を示唆することが多く、真の機能獲得のタイミングであるといえます。

疼痛の改善に伴って適宜、可動域の改善と、ローテーターカフをはじめとした関節機能再獲得のための運動療法を処方していきます。

 

可動域制限の治療についてはこちらをご覧ください。

肩関節の可動域制限を治療する
肩関節の可動域制限の治療についての考え方です。 肩関節周囲炎等に続発するROM制限では結滞動作が障害されることが多いですが、その病態を考えると肩関節の治療が見えてきます。

 

まとめ

 

以上、夜間痛に関連する病態を解説しました。

これらの病態の治療により夜間就寝中の組織修復が確保できるようになると、遷延しがちな肩関節周囲炎の治療を加速させることができます。

加えて、改善の得られにくい炎症期肩関節周囲炎における治療効果は、わずかであっても患者さんの精神的安楽をもたらします。

 

適切なポジショニング指導と併せて、ぜひ治療してみてください。

 

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参考

肩関節 / 20 巻 (1996) 肩関節の関節内圧力変化 井口 理ら

 

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