リハビリテーションを考える 理学療法士のブログ

リハビリ勉強会や臨床に役立つ情報などを発信します

スポンサーリンク

股関節のつまり感の原因と治療・解消法~効果的なブリッジ運動~

リハビリ

股関節のつまり感~股関節のインピンジメント?~

 

股関節の深屈曲時、たとえばしゃがみこみやランジ、スクワット動作などで股関節の前面に痛みやつまり感を訴える患者さんを経験したことは無いでしょうか?

arthroscopichipsurgeon.com

 

可動域には大きな問題は無く、腸腰筋など股関節屈筋群のいわゆる短縮痛というものとはちょっと違うような気がします。

特に前方要素の緊張が高いわけでもなく、腸腰筋や四頭筋のストレッチやマッサージをしてみても良い反応は得られません。

では関節内運動の障害かと思えばモビリゼーションの効果があるわけでもない。

 

症状の出現様式は単純であるのにはっきりとした原因が見つからず、セラピストになりたての頃はその治療に難渋することが多かった記憶があります。

 

結論から言えば、多くの場合それらは大腿骨頭のコントロール不全によるインピンジメントとも言える現象であり、「大殿筋を上手に使えるようにする」と良くなることが非常に多いのですが、その病態は以下の通りです。

 

股関節つまり感の原因

 

股関節の主要な筋肉であるハムストリングスと大殿筋は、あらゆる動作において推進力を得るために重要な働きを担っており、スクワットやランジ動作では遠心性収縮でその動きに制動をかけてくれています。

 

関節面の大きさや筋肉の強力さからイメージがつき難いかも知れませんが、股関節は機能的にも構造的にも肩関節に似ている関節です。

jintai100.com

 

肩関節をローテーターカフが覆っているように、股関節も大小様々な筋肉が巻きつくように付着し、骨頭の動きをコントロールしています。いわゆるforce coupleというやつです。

そのことに鑑みれば肩関節で多発するインピンジメントや骨頭の可動不全が股関節で起こらないはずもなく、肩甲骨と上腕骨のように大腿骨頭が臼蓋に対して適切なリズムで可動し、適切なレールを通って関節内運動を起こす必要があります。

 

ハムストリングスはレバーアーム(テコの支点から作用点までの長さ)が長い筋肉で、股関節や膝関節に強力なトルクを発生させます。

その一方で、大腿二頭筋短頭以外は坐骨結節に起始を持つ二関節筋であり、大腿骨に付着を持たないことやテコの長さから、股関節(大腿骨頭)の動きをコントロールするのは苦手です。

それに対し大殿筋はテコも短く、起始停止の関係からも骨頭を求心位に固定しコントロールすることに優れます。

“Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes”

 

このことからハムストリングスが優位な股関節運動は、上腕二頭筋や三頭筋による肩関節運動のようなものですから、関節構造にトラブルを引き起こすことは想像に難くないと思います。

 

骨頭を適切に引き込み、求心位に保つことが出来なくなると、骨頭の前方逸脱やそれに伴う前方組織の占拠性障害が引き起こされます。

それこそが股関節前面のつまり感の正体であり、それを改善するには骨頭コントロールに優れる大殿筋の賦活が欠かせません。

 

その他の障害

 

股関節の前面に症状を訴える病態には、関節唇損傷やGanzらによって提唱された股関節と寛骨臼のインピンジメント:FAI(Femoroacetabular impingement)といったものもあります。

詳細は成書に譲りますがこれらは器質的な異常が主因であり、画像所見等も含めた評価によって理学療法の適応を見極める必要があるのは言うまでもありません。

股関節つまり感の治療

 

以上から、治療戦略の中心は大殿筋の賦活⇒大殿筋を使った運動の学習となります。

 

骨頭のコントロールという意味では股関節内外旋や中殿筋、内転筋などの収縮を適切に行えるようにするのも良いでしょう。

病態を考えれば、前方組織の迂闊なストレッチやマッサージが逆効果となる可能性があるのは推して知るべしです。

 

もちろん大殿筋の収縮はあくまでprimaryであり、ハムストリングスの収縮が必要ないというわけではありません。

膝関節の角度如何で収縮dominanceは変わるべきと思いますし、最終的にはどちらも強力に働いてこそ力強い運動が可能となります。

 

ただ、ご存じの通りハムストリングスは筋形態や収縮様式から、非常にケガをしやすい筋肉です。

大殿筋の収縮不全は共働筋であるハムストリングスへの負荷の増加につながるため、例えばハムストリングスの肉離れを既往に持つ患者さんなどにも大殿筋の促通は非常に有益である可能性がありあます。

 

大体骨頭のコントロール不全を見つける

 

大殿筋収縮不全によるハムストリングス優位の股関節伸展は老若男女、トップレベルのアスリートなどにも多く見られる現象で、その多くは前述の通り“股関節前面のつまった感じ”を訴えます。

 

単一の評価で前述のような病態をdetectするのは非常に難しく、個人的には以下のような所見が得られた際に大腿骨頭のコントロール不全を疑います。

 

①画像所見等でFAIなどの器質的な障害が無い

②当該筋に対する徒手療法で改善が見られない

③症状の出現する動作において骨頭運動を徒手誘導してやると症状が軽減・消失する

④ヒップヒンジ動作の中でお尻が左右に逃げるような徴候が見られる

ヒップヒンジ動作(Nick-E.com)

 

完全に経験則ですが、④は非常に有効な指標だと考えています。

 

治療:大殿筋エクササイズ⇒ブリッジ運動

 

大殿筋のエクササイズと言えばコレ。

 

定番中の定番、ブリッジ運動です。

 

バックブリッジ、ヒップリフト、ヒップアップなどといった名で呼ばれる(個人的にはヒップリフトと呼んでいます)この運動は、股関節の伸展を中心とした動作であることから、大殿筋を中心とした後方要素のエクササイズとして指導されることが多いと思います。

私もご多分に漏れず大殿筋の促通を目的に処方し、使用頻度も比較的高いエクササイズです。

 

仰臥位で膝を曲げてお尻を浮かせるという単純な運動ですが、こと大殿筋に特化して行うとなると少々の工夫が必要です。

そもそもハムストリングスが優位に働いてしまう人を対象とするのですから、何も考えず形だけ真似して行ったのでは目的は達成されません。

 

ブリッジ運動の方法

①仰臥位、膝関節は概ね90°程度とします。

この時膝関節の屈曲角度が浅いとハムストリングスが優位に働いてしまいますし、深すぎても四頭筋などに力が分散されてしまいます。

フィニッシュポジションで下腿が床と垂直となる程度が適切と思います。脚幅はあまり気にする必要は無く、本人が最も収縮感を強く感じるポジションで構いません。

 

②上半身と大腿が概ね一直線となる程度~若干の股関節伸展位までお尻を持ち上げます。

この時大腿を外旋させるようなイメージで力を入れてもらい、スタートからフィニッシュにかけてお尻がギュッと締まっていくイメージをしてもらいます。

 

③フィニッシュポジションで1~3秒ほどお尻をsqueezeします。

この時、セラピストの手で殿筋を収縮方向に誘導してやると力が入りやすいことが多いです。

 

ブリッジ運動の応用

 

全運動範囲を通してお尻を意識できるようになったら、膝の伸展を追加するのも良いかもしれません。大腿四頭筋を収縮させることでハムストリングスに相反抑制をかけ、より大殿筋の収縮を協調します。

その場合セラピストは患者さんの脚側に位置どり、脛を押さえます。上記と同様にブリッジ動作を行いながら、膝を伸展するように力を入れます。(足底は接地しているため等尺性収縮)。

この時、足底を床に押し付けるように脛を押さえると比較的力を入れやすくなります。

 

セルフエクササイズとして行う場合は以下のように壁を利用して行うのが良いでしょう。

 

この方法はかの有名なStuart McGillも推奨しており、McGill Bridgeなどと呼んだりもします。

ただ、膝を伸ばそうとするあまり殿筋の収縮が弱くなってしまっては本末転倒ですし、筋肉を意識する、いわゆるMind-Muscle Connectionが出来ていないとあまり効果が無いような気がしています。

無理に応用を行わなくても十分に目的は達成できると思いますから、個人的には(特に高齢の患者さんには)あまり使用することはありません。

他にも前足部を浮かせて踵支持にしてみたり、ベッドから脚を垂らして股関節伸展位で行ったりなど、ハムストリングスを抑制する手段はいくつかあります。患者さんに応じて使い分けましょう。

 

より大殿筋dominanceを大きくするために、へそを覗き込むように上半身を持ち上げることで腹筋を収縮させ、back muscleの収縮に抑制をかける手段も考えられますが、脊柱の弯曲を考えるとあまり得策とは言えない気がします。

大殿筋の作用には股関節外旋もありますので、股関節伸展に加えて開排するような動きを追加するのも良いかもしれませんが、上下部線維で作用も変わりますし過度に行うと逆に収縮が入り難くなるので注意が必要です。

 

事前に大殿筋のアイソメトリック収縮などで神経筋機能を活性化させておいたり、ストレッチなどでハムストリングスに抑制をかけておくのも良いでしょう。

また、このエクササイズの後は荷重位での大殿筋エクササイズ、例えばランジ系エクササイズなどへと移行していくのが順当でしょう。

 

ご如才ないことですが、このような大殿筋促通エクササイズが奏功するのは収縮不全が神経筋機構に由来するものである場合です。

例えば組織間の癒着や筋の過緊張、overuseなどによるものの場合、当然治療戦略は異なったものとなります。

 

股関節の治療について

 

前述の通り股関節は、荷重関節という特徴はあれど肩関節に似た機能・構造を持っています。肩関節の如く股関節を治療してみるとなにかと上手くいく事があるかもしれません。

逆説的に肩関節を荷重関節である股関節のように扱ってみると思わぬ機能改善が得られることもあり、できるできないはともかくとして、例えば“逆立ち”は肩関節の機能向上にとても有効なエクササイズだと考えています。

 

結語

 

ここでは、股関節前面のつまりについて大殿筋とハムストリングスにフォーカスしてお話ししてきましたが、単純な筋緊張や関節包の拘縮、関節変性など、これ以外の原因も多く考えられます。

 

また、今回お話しした内容は収縮組織としての異常によるものですので、他動運動局面においてのつまり感は別の解釈が必要になります。

ただ、その場合のつまり感は比較的原因が推察しやすく、軟部組織のストレッチングやモビリゼーションなど、オーソドックスな治療で改善することが多い印象です。

 

さらに言えば、そもそも大殿筋とハムストリングスのドミナンスが変化してしまった原因があるはずですから、それを改善していかなければ症状の改善は一過性のものとなってしまうでしょう。(腰椎骨盤帯のアライメントが原因であることが多いと思います。経験則ですが。)

 

また、修正エクササイズに関して、前述したようにオーソドックスなブリッジ運動でも目的に応じて細かな方法や患者さんへのキューが変わってきます。

例えばブリッジ運動の負荷を上げようと片脚で行っているのを散見しますが、目的によってはあまり優れた方法とは言えないと思います。(ちなみに私の場合、片脚でのブリッジ運動は多裂筋エクササイズの一環として行います)

 

漠然とエクササイズを処方・指導するのではなく、評価に基づいた合目的的なエクササイズを処方・指導することが出来なければセラピストとしての存在価値はありません。

巷に溢れる有象無象の運動指導者とセラピストの差はここにこそあります。

運動療法のプロフェッショナルとしての矜持を持って治療に当たりたいものです。

 

 

追記:この股関節病態はかの有名なアメリカの理学療法士SahrmannによってFemoral Anterior Glide Syndromeとして紹介されているそうです(情報ありがとうございます)。上の図も一部引用させて頂きました。「運動機能障害症候群のマネジメント」恥ずかしながら私はまだ読んでいないのですが、良書として多くのセラピストが評価しています。

 

 

 

 

コメント